モーツァルトin聖徳2006 > 論文・エッセイ


Mozart in Seitoku 2006

モーツァルト生誕250年の記念行事を終えて

音楽文化学科教授
泉 靖彦


 1756年1月27日オーストリアのザルツブルクに生まれたW・A・モーツァルトは、幼少時代から音楽史上最高の神童と呼ばれ、珠玉の作品は世界中で愛されている。

 聖徳大学では「モーツァルトin 聖徳2006」を企画し、オーストリア、ドイツ両大使館、観光局、松戸市教育委員会をはじめ多くの後援に支えられて以下の様な行事を計画し、ご参加頂いた多くの皆様から賞賛のお言葉を頂いた。

 振り返ってみると、「モーツァルトの自筆譜(K.185)」展、海老澤敏氏による講演会、聖徳オペラ《フィガロの結婚》上演、聖徳大学オープンアカデミー(SOA)公開講座、声楽、室内楽、ピアノ、電子オルガンによる全6回の演奏会等、盛り沢山の内容を全て滞りなく実施した。

 中でも12月6日に開催された日本音楽学会関東支部共催による国際シンポジウム「市民の中のモーツァルト」は、海老澤敏氏コーディネートのもと、国際モーツァルテウム財団のルドルフ・アンガーミューラー博士、ウイーン楽友協会資料室長のオットー・ビーバ博士、さらに「モーツァルト in 聖徳」の立役者であるピアニスト原佳大氏(聖徳大学教授、ウイーン国立音楽大学夏季マスタークラス客員教授)をパネリストに迎えて、興味深いモーツァルト談義が展開され、200名を超える参加者を魅了した。

 実際、海老澤先生ご自身が「モーァルトに騒ぎ過ぎ」とアサヒタウン情報誌(多摩版)に書かれて居られたが、今、新春を迎えて静かに想い起こしてみると、「モーツァルトin 聖徳」は、改めて大作曲家の生涯と作品を実体験し、音楽芸術の文化としての底知れぬ使命を再確認した。本企画の中心となってまとめ役を引き受けられた音楽学の山本まり子先生に敬意を表したい。

 私も聖徳オープンアカデミー(SOA)の公開講座で、「モーツァルト・サプリ〜心に効く、頭に効く〜」の中で「モーツァルトと子どもたち」を担当し、音楽教育の立場から児童合唱隊の指導体験を踏まえて講義をさせて頂いた。ひと言で子どもたちと言っても、何時の時代の何処の国の子どもを指すのか極めて曖昧なタイトルで、あれもこれもと思案したが90分の内容を聴講の皆さんと楽しい場を共有することをモットーに、モーツァルトの作品を歌ったり、CD鑑賞を交えて心地よく過ごすことができた。当日のプロットを紹介しよう。

 かくして、モーツァルトに終始した 2006年も無事師走を迎え、東京少年少女合唱隊の年間行事も「ホセ・カレーラスと歌うクリスマス・スペシャルコンサート」を成功裡に終わらせて、年間出演20回の快挙を成し遂げた。因みにこの民間の合唱隊に所属している子ども達は、ごく一般の公立小・中学校から入隊し、高校、大学に進学後もシニアチームとして歌い続けているメンバーも多い。日本の児童合唱の先駆者である長谷川新一氏(大正4年生れ、現在92歳)を創設者とする世界レベルの合唱隊は、後継者として育った長谷川冴子・久恵姉妹の活躍により大きな発展を遂げ、オラトリオ、オペラ、マーラーやフォーレ等、様々なステージをこなしてきた。

 これまでに名指しで出演を依頼された指揮者は、クラウディオ・アバド、グスタフ・クーン、小澤征爾、シャルル・デュトア、アンドレ・プレヴィン、ムスティスラフ・ロストロポービッチ、ベルナール・ハイティンク、坂本龍一と枚挙に暇もなく、次々に届く出演の依頼の陰には、合唱隊指導者の指導力もさることながら、短時間に極めて音楽的感性の高い音楽を、辛辣な練習をものともせず頑張ってきた隊員達の涙ぐましい努力に驚嘆せざるを得ない。

 合唱というこの素晴らしい音楽環境の中から、前号で紹介したテノールの志田雄啓氏をはじめ、多くの歌い手や音楽教育者が世界で活躍しているのも頼もしい。テレビ朝日の「題名のない音楽会」で軽妙な司会とピアノを披露している羽田健太郎氏、そしてわが聖徳大学音楽文化学科の坂崎紀教授(音楽学)、児童学科の鈴木順子講師(NHK第5代歌のおねえさん、中川順子)もこの合唱隊の出身である。

 戦後の混乱期から55年を生き抜いてきたこの合唱隊の子ども達は、歌を通して自らの人生を確立し、多くの友人や聴衆に、音楽の表現者として、幸せと感動をもたらしたといえよう。小学校低学年時代は保護者の勧めで入隊したが、その後は、強制されることもなく練習に通い、歌うことの喜びを体感し、ついには小さな表現者として誇りを持つまでに成長していった。この様に音楽を通して生きる喜びを感受し、生きる力を会得した子ども達は、全国の小・中学校にも、多々存在しているものと確信したい。

 ハンガリーの音楽教育者・作曲家のコダーイ・ゾルタンは、著書『教育思想と実践』の中で、「人類は、本当に音楽の価値を知るとき、より幸せに生きることができる」と述べている。音楽は子ども達はもとより、生涯学習の第一義として、世界人類に平和と繁栄の和をもたらすものである。「歌うこどもたち」のまとめとして、子どもたち、児童・生徒に、より質の高い本物の音楽芸術を学校や社会で提供していくことが、我々音楽教育に携わる者の使命であることを再確認したい。

 「うた」は人々の心を優しく結び付け、家族、友人、そして仲間たちを相互に癒してくれる良薬である。今、日本の子ども社会は危機的状況にある。殺伐とした合理主義の寒風を、暖かな歌声で吹き飛ばして、創造的で感性の豊かな子ども達を育てたい。

(いずみ やすひこ 音楽教育)


初出:『児童研だより NO.28』(聖徳大学児童学研究所編集、聖徳大学発行、2007)


Yasuhiko Izumi 教員紹介:泉 靖彦


モーツァルトin聖徳2006 > 論文・エッセイ