『もし、アメリカで暮らしたら』
1 時代遅れのアメリカン・スタンダード
アメリカというと思い浮かぶのは世界の金融の中心地であるニューヨークのウォール街、情報産業のメッカであるカルフォルニアのシリコンバレー、映画の都として君臨するハリウッド、などと先進的なイメージが強いと思います。事実「強いアメリカ」は政治・経済・文化にわたって世界の基準はアメリカ基準(アメリカン・スタンダード)に確立させてしまいました。そして世界の人々の住んでみたい憧れの国として輝いています。しかし、美人(そういえば中国語ではアメリカは美国と書く)も近くで見るといろいろあらが出てくるように生活してみると多くの問題点が見えてきます。
そのひとつ例として小切手の問題があります。日本では普通の人はあまりお目にかかることがない小切手はアメリカ人にとって生活必需品となっています。毎月の電気、ガス、アパートの家賃などの支払いはすべて小切手でなされます。また、現金を持ち歩かないので欠かせないクレジットカードの月末の支払いも小切手なのです。それも請求書がきたら金額を数字と英語で記入しサインした小切手を封筒に入れて切手を貼りカード会社に郵送するのです。アメリカ人が使う小切手の総数は年間630憶枚(2001年)にのぼっていて、銀行や郵便局が小切手を処理するコストは膨大なものと思われます。ヨーロッパや日本のように公共料金や買い物の支払いは銀行の口座から自動的に引き落とされるものと思っていると、その遅れたスタイルに呆れてしまいます。新しい電子マネーになるのには50年以上かかるといわれる理由はこの自分でサインして金額を書き込むことが好きな国民気質が大きいようです。
もうひとつの例として測定法を頑固に変えないところです。街で食料品を買うとき重さを量るのはパウンド、気温は摂氏でなく華氏、ガソリンの計算はガロン、ゴルフはピンまでヤードとフィート、自動車の速度はマイルとなってアメリカから国境を越えてカナダに行くとメートル法になり速度規制に混乱します。ヨーロッパはメートル法が広く普及していて欧州共同体の国々は次々とメートル法を取り入れイギリスもガロンからリットルへと国際化へ改善してきました。
これらの時代遅れのアメリカン・スタンダードがまかり通っているアメリカは世界をリードしていく先進的な部分と世界から取り残されている部分とをコインの裏表のように共有している社会でもあるのです。しかし、この矛盾こそがアメリカを身近に感じさせる大きな要因となっていることも事実です。最先端の国でありながら、遅れた部分は人をほっとさせているようにも思えるのです。
多くの日本人駐在員がアメリカでの生活を終え、帰国時に帰りたくないというのはプラスとマイナスを秤に計ってもプラスの方が多いという証明でもあるようです。
さてその素顔のアメリカを知るには住んでみるのが一番です。
まさしく「百聞は一見に如かず」
2 アメリカの光と影
人はあまりの衝撃に人生観ががらりと音をたてて変わるときがあります。私はそんな経験をバハマのヨットハーバーでしました。バハマはニューヨークから飛行機で2時間ほどのリゾート地として有名ですが、クリスマスの頃、マンハッタンはマイナス10度という寒さにもかかわらず、バハマはTシャツにショートパンツ姿でいられる真夏の楽園なのです。 リッチなアメリカ人で賑わうアトランティスというリゾートホテルにヨットハーバーが隣接してあり、散歩がてらに見にいきました。そこで目にしたヨットは八丈島へ行く船より大きく、またその数も数え切れないほどたくさん停泊していました。日本でヨットいうとなにか5−6人が顔つき会わせて身体を動かしながらバランスをとったりするタイプのものと、せいぜいキッチンや狭い部屋がついたクルーザーと呼ばれるものしか知りませんでしたが、そこに居並ぶヨットは中で100人位の結婚披露パーティーがらくに出来るサイズでした。目の前の真っ白に光る船体をヘッドホンで指令を受けながら掃除会社の白人のスタッフ達がきびきびと働いている光景は映画の一場面のようでした。
その時、紺碧の空と真っ白なヨットを眺めていた私の目が釘付けになりました。それはヨットの船尾にトンボのように止まっているヘリコプターでした。すべてのヨットに装備されていたのです。
忙しいアメリカ人のエクゼクティブはヨットで旅をするのではなく、ヘリコプターで自分のヨットにかけつけるのです。勿論、別荘も専用のジェット機ももっているでしょうが、その豊かさの象徴といえるヨットの数の多さに圧倒されました。
そういえばバハマに入国するときに入国書類に入国方法が海か空かとありましたが、海という方にチェックをつける理由が分かって、呻ってしまいました。
リゾート地で会うアメリカ人の男性はたいていショートパンツとポロシャツでお腹が出ていてよくいるオトーサンタイプです。しかし、かれらの年収を聞くと驚きます。
ちなみにGEの会長だったジャック・ウエルチ氏の年収は1620万ドル(2106憶円)、その他に自社株の保有などや特典をなど桁違いの収入なのです。
アメリカ人の金持ちと比べると日本人の金持ちはぐっとスケールが小さくて比較になりませんが、アメリカンドリームとはまさしくそのような金持ちの存在なのです。
しかし、光があれば必ずあるのが影の部分です。米国人口統計局('99)の発表によると「アメリカ人の3人に1人は貧乏人」と発表して、注目を集めています。
2ヶ月以上貧困状態にあった国民が30.3%で、2年以上貧困にあった国民は13%と約6,000万人に上ったのです。貧困の定義は3人家族で年収13,650ドル(約134万円=1ドル130円)、4人家族で年収16,540ドル(約215万円=1ドル130円)となっています。ほんの一握りの金持ちと多くの貧困者の格差がどんどん広がってきています。アメリカをとりまく社会問題の多くがこの影の部分から生まれているのです。
3 失うものがない人々
日本の街を歩くと、必ず目にするのは自動販売機という無人の小さなお店です。しかしアメリカではほとんどおめにかかりませんが、理由は簡単です。販売機の中のお金が盗まれるから置かないのです。販売機の存在はここに現金がありますということを知らせているようなものですから、機械を壊しても確実にお金を手に入れることができるので危険この上ないのです。
また、市内を走るバスは24時間運転していますが、乗車する場合は小銭(お札は使用出来ない)を用意しておくか、専用のカードやトークンといわれるコインを前もって購入しておく必要があります。これも現金目当てにバスの運転手が襲われないためなのです。
貧しいアメリカ人が多いということは治安が悪くなるのは当然のことといえますが、その犯罪の発生率は驚くべきものがあります。
米国司法省が発表した(1998年)犯罪調査の結果がその実態を証明しています。
・ 仮釈放あるいは執行猶予中の者・・・390万人
(毎年3%ずつ増加し、前年より11万人増加)
・ 刑務所などに服役中の者・・・・・・180万人
全体を合わせると570万人、実に成人の35人に1人が「現役犯罪者」となっているのですから刑務所が一杯というのが頷けます。しかし、これに保護観察からはずれている者を加えるとさらに割合は高くなって、執行猶予者の18%、仮釈放者の41%がまた新たな犯罪を犯し収監されている事実も見逃せないのです。
この年のニューヨークの年間殺人発生件数は880件と前年の984件を下回り、同市の二番目に低い数字となりました。その他に押し込み強盗、強奪、重窃盗、暴行傷害、性犯罪、車泥棒、など殺人以外の犯罪は限りなく発生しています。
米国連邦捜査局(FBI)の統計によると全米の198の主要都市で人口10万人あたりの犯罪発生率を比べるとニューヨークは150位に位置され、人口100万人以上の8大都市に絞るとなんと最も安全な都市となっているのです。ちなみに最も犯罪の発生率が高い「犯罪都市」はアトランタです。
初めて東京に来た米国人と電車や地下鉄に乗って彼らが驚くのは、「船こぐ人々」の光景です。電車のなかで老いも若きものグーグー眠っている姿はかれらには異様に映るのです。 なぜなら、かれらは電車やバスでは決して居眠りをしないからです。いつなんどき、襲われるかもしれないのでしっかり目を開いているのです。白昼、ニューヨークの地下鉄で電車から降り、ホームから乗客集団の最後尾を歩いていた男性が突然背中を叩かれて振り向いたとたんに金を出せとナイフを突きつけられたなど日常茶飯事なのです。
アメリカ人を見たらドロボーと思えとは考えたくはありませんが、病めるアメリカはかなり重症な患者でもあるのです。
4 若いエネルギーの行方
犯罪は何でも有りのアメリカでも、1998年8月イリノイ州で起きた事件は衝撃的でした。行方不明になった11才の少女が死体で見つかった殺害事件の犯人が見つかり、殺害に至る犯行を自供したのですが、犯人は近所に住む7才と8才の少年でした。少年と少女は顔見知りで、自転車で遊んでいて性的乱暴を目的に殺されたのですが、直接の死因は少女が下着を口に詰め込まれた窒息死と報告され、アメリカ犯罪史上、最年少の殺人事件となりました。しかし、2人を知る近所の人々の話では、どこにでもいる普通の遊び盛りの子供達で、小遣い稼ぎによく進んで手伝いをしていたと証言しています。
また、この年の3月にはアーカンソー州の中学校でライフル銃を持った同校の少年2人が校庭で乱射し、生徒4人、教師1人を撃ち殺し10人にけがをさせる事件がおきました。
子供をもつ親にとって子供が近所の子供と遊んだり、学校に行ったりすることから目を離さずにいることは不可能ですが、日本と違う二つのことに注目しなくてはなりません。
その一つが身体のサイズです。身体はただ日本人より大きいというより、すっかり大人なのです。あるとき新聞で散歩中の女性が15才の少年にレイプされ、犯人が捕まったというので大急ぎでTVのニュースをみたところ、驚いたことに身体は2m近くある立派な大人の男性でした。子供と思ったら大間違いなのです。
もう一つの問題は拳銃の所持です。アメリカのスーパーマーケットでなにげなく売られている拳銃が80ドルと正札がついていて足を止めたことがあります。トマトや牛乳を買うように拳銃が買える環境があるのです。
先日、アメリカ日系4世の高校生の女の子と話しをしていたら、彼女の行っている高校によく警察が来るというのです。拳銃事件や校内でレイプがあるからと言うので、そんな高校やめてもっとまともなところにしたらどうかと言いました。ところが、どこでも同じだというのにはびっくりしました。日本の高校生といかに違うかデータがあります。
米国高校生の日常におけるドラッグ、酒、セックス、暴力などの関係についての報告書
(米国疾病対策予防センター 16,262人調査 1999年)によると、過去1ヶ月間に
・ 銃刀類を携帯した 18.3% ・飲酒した 50.8%( 5回以上 33.4% )
・ マリファナを吸った 26.2% ・たばこを吸った 36.4%(20日以上 16.7%)
・ 飲酒運転の車に乗った 36.6% ・暴力をともなうケンカをした 36.6%
・ セックスをしたことがある 48.4% (4人以上と関係がある 16%)
・ 自殺未遂をおこした 7.7%
この結果、高校生の5人に1人は高校に拳銃やナイフを持って行っていることになります。しかし、その理由は襲われた時に身を守るためとなっていて、なにかのケンカの勢いで危険な状況を作る原因となり、高校の入り口でガードマンや先生が危険物持ち込みチェックをしている高校も増えてきました。日本の高校生とはあまりにも違う危険な生活ぶりが浮き彫りになっています。
5 サラダボールの中身
日本人は国籍と人種が違うということに慣れていませんが、アメリカにいるとそんなことで人を判断できなくなります。友人の日本生まれの女性がアメリカでアメリカ人と結婚しアメリカ人になりました。彼女が父親の墓参り日本にやってきましたが、成田の税関で外国人の入国審査をうけるときなにか変な感じがするといっていました。
彼女のように日本人の顔をした人やヨーロッパ人の顔をした人やいろいろな顔をした人たちがアメリカを構成しています。純粋なアメリカ人は先住民であるアメリカン・インディアンだけなのです。
国それぞれに独自の国民性がありますが、アメリカのように多民族国家の国民性をひとまとめにするには難しいものがあります。それぞれにルーツが違うので考え方も行動もばらばらな国民を引っ張ってゆくのはなかなか大変なことだと思います。
しかし、このばらばらな人が一つになって団結するときがあります。それは、アメリカの星条旗の下に胸に手を当てた時です。
1991年に湾岸戦争が勝利に終わり、マンハッタンを凱旋パレードしたパウエル将軍率いる軍隊の頭上に舞う紙吹雪と、そして無事に我が家へ帰れるように祈りを込めた家々を飾る黄色いリボンは象徴的でしたが、何処を見てもアメリカの星条旗が大きくたなびき、アメリカ人が一体となった出来事でした。
また、2001年9月11日の米国の同時多発テロ事件はまたもアメリカ人に星条旗の存在を強くした事件でした。当時、家々だけでなく車やすべてのものに愛国の意味をこめて星条旗が飾られました。衣料メーカーのギヤップやバナナリパブリックは星条旗のついたアイテムは製造が追いつかないほど売れ、星条旗のピンはほとんどの会社から社員に支給され大統領から掃除人まで皆、ピン(バッチ)をつけていました。
この星条旗はこのような時だけでなく、いつでもどこでも飾られたりますが、アメリカ人が自分自身の国籍を忘れないようにあるかと思うくらい目にします。
「サラダボール」と言われるアメリカは多民族がサラダボールに入ったひとつひとつの違った味のある野菜のように異なり、そのサラダにドレッシングをかけてよくかき混ぜ、ひとつのお料理として出来上がる時、サラダの上に星条旗がはためく一品でもあるのです。
歴史の浅いこの国の強さはこのような時に発揮されます。いつもばらばらな人たちがなにか決まると文句を言わずにそれに従うところはアメリカ人の最も大きな国民性といえそうです。また、Godという歌詞で論議を生んでいますが、国歌と相まってアメリカらしさを演出しています。
それにひきかえ国内では日本の国旗はあまり目にしませんが。昔は祭日にどの家も玄関に国旗を掲揚したといったら、きっと若い人は信じないでしょう。
サッカーのワールドカップでやっと少し日の丸が登場するようになりましたが、日本の国歌をお相撲の歌と思っている若い人がいるくらいですから、お馴染みではないようです。
6 巨大スーパー・マーケット
アメリカではニューヨークのような大都市は別として、さて夕飯の買い物にでも行こうかとなると車に乗ってスーパー・マーケットに行く以外方法はありません。日本では近年、デパートの地下食料品売り場が話題になっていますが、アメリカのデパートでお総菜や食品を売っている例はごくごく僅かです。
今日のようなスーパー・マーケット社会を築いた背景には、そのアメリカの広大な土地の広さや女性の社会進出があげられます。アメリカはほとんどの家庭が共働きで、働く女性の強い味方はスーパー・マーケットと大型冷蔵庫、そして電子レンジといえそうです。
毎週一回、車でスーパー・マーケットに買い出しに行き、大人が乗れるくらいのカートに一週間分に買い物をするのが、平均的なアメリカ人の生活です。
どのスーパーも日本のデパートほどの広さがあり、その品数の多さに驚かされます。また、中型程度のスーパー・マーケットには豊かな階層向きのしゃれた店もあり、品揃えが全然違います。例えば野菜のほとんどを占める有機野菜(オーガニック)や健康食品が置かれているのも特徴です。品揃えで驚くのは冷凍食品の種類の多さですが、子供向けに「キッズ・ディナー」といって、食事がセットで冷凍されチンするだけで、すぐ食べられるのですが、何種類もあり、毎日、晩ご飯がこれだと気の毒にもなります。
また、すべてパックが日本の業務用のサイズぐらいあり、その量の多さに驚きます。
豚肉、牛肉、鶏肉の価格がほとんど同じぐらいで牛肉が高級品と感じている日本人には意外かもしれません。また、食料品で「kosher」という表示があるものを初めて見たとき分からないので辞書を引いたところ、それがユダヤ教の信徒専用のものであると知り、改めて多様な人種が住む国であることを感じました。
全米の代表的なスーパー・マーケットの「ウオルマート」のデータです。
・ 創業40年目(1962年)アーカンソー州で低所得者向けの大型の安売り店がスタート。
・ 売上高 2,177憶ドル 米民間企業最大の売り上げ。 米石油メジャーのエクソンを抜いて世界最大となった(オーストリアの国内総生産に匹敵)
・ 買い物客は1週間で延べ1億人、1分間レジを通過する商品は1千万個以上
・ 日用雑貨や家電を扱うウオルマート1,640店、食料品売り場を併設したスパーセンターが1,077店、キャチフレーズは「トマトからタイヤまで」
・ メーカーから大量仕入れを武器に有利な取引条件を引き出し、安売り哲学を維持。
・ 顧客の平均所帯収入は37,000ドル(約481万円)と低所得者向け
カートにいっぱい積んだ買い物をレジに並んで支払うとき、気が付くことはその量のわりには支払いが安いことです。例えばコカコーラ(355ミリリットル)が12本セットで2ドル(260円位)と、アメリカは生活に直結したものはとても安いのですが、それ故に大量に買い、大量に食べるので肥満の問題が深刻になっているのです。
7 心の広い人びと
日本人は中学校から英語を習っているのに海外旅行に行って、あまりにも相手の英語を理解できなくて情けなくなる人が多いと思います。しかし、アメリカに行ってアメリカ人が話す英語が英語ではなく米語だと気が付くまでにそう時間はかかりません。
彼らはいろいろな民族の言葉でコミュニケーションはとれないので、一応、英語を基準に話をしているのですが、それも新しい英語に似ている言葉を使用しているように感じられます。上手く機能しているのは相手の英語を理解してあげようという精神が働いているからで、決してこちらの英語が上手いわけではないのです。その心の広さに甘えていると英語は上達しないようです。アメリカ人の特性の一つにこの心の広さがあります。
あるときアメリカ人の友人夫婦の自宅のパーティーに招待されました。白人同士の夫婦は再婚でそれぞれに子供がいて、独立しているので2人暮らしかと思っていましたが、その日に私たちの息子ですと紹介されたのは小学生ぐらいの韓国人の少年でした。一瞬言葉を失ってしまいましたが、夫婦の晴れがましい笑顔に勇気づけられて握手をしました。
最近、夫婦はその少年を養子として迎えたそうでしたが、アメリカでは珍しいことではないのです。今年、3000人の養子縁組希望の子供を写真付きで情報掲載したウエッブサイトが保健・福祉省の支援でスタートしました。ナショナル・アダプション・センター(養子促進団体)が中心になってサイトを実現し、民間の養子縁組のサービスと違い福祉事務所をとおして一時的に養父母に預けられている身体や精神に障害があり、年令が高く少数民族の子供が多いのが特徴です。こうした子供は現在アメリカに約134,000人いるといわれ、一時的に養父母に預けられていても、13,000人は受け入れ先がないそうです。
恵まれない境遇の子供達に手をさしのべるアメリカ人は日本人には理解し難いかも知れません。しかし、アメリカの国の成り立ちからも分かるように外国人を受け入れに対する感覚は他の国とは異なっているようです。
敗戦後、日本にもそのような組織がありました。戦後の混乱期に日米の混血児と呼ばれた孤児達を養子縁組というかたちで救済しようとした民間人がいたのです。しかし、日本人で彼らを養子にしようとするひとはほとんどいなかったので、彼らを迎えたのはアメリカ人でした。太平洋を越えて養子になっていった子供達はいまや50代となっているはずです。戦後55年以上経っても、アメリカ人のように広い心になれない日本人にとって、アメリカという国の懐の深さに今更ながら感心させられます。
8 なんでも訴訟の社会
郊外の一軒家に住む友人が冬になると都会のコンドミニアムに住みたくなると、よくこぼしていました。夜半に雪が降ると早朝、出勤前に雪かきをしなければならないので憂鬱になるそうです。ガレージの車が出なくなる心配ではなく、きちんとしておかないと近所の人が転んだり、車がスリップした場合に訴訟になるからです。
ニューヨークの新聞に載った事件が象徴的でした。地下鉄駅構内で老人の首を絞めポケットからお金を盗もうとした強盗が警察官に見つかり撃たれてケガをした事件がありました。その強盗が警察官の発砲が行き過ぎであると訴えたのです。裁判の結果は強盗の訴えを認めて強盗犯に400万ドル(6億円)の賠償が支払われたのです。問題は訴訟そのものよりその結末にあるのです。市民はすぐに訴えますが、また自分自身がいつ訴えられるか恐怖にさいなまれ、家庭が破壊されるケースも珍しくないのです。
その訴訟をビジネスにする弁護士が訴訟社会を増殖させているのも事実です。弁護士は年々増加の一途をたどり、現在、全米で100万人を越えました。弁護士もピンからキリまでいて、事件を探して救急車の後を追いかけて仕事を探すといわれるキリから弁護士事務所を訪れ、話を始めると1分につき相談料が500ドルと決まっている有名弁護士などがいます。弁護士の増加は訴訟数の多さと高収入が支えているのです。しかし、優秀でやり手な弁護士を雇うかどうかは自分自身の運命を左右するだけでなく、一つに判例が歴史を変えてしまうほどのことが起きる可能性があるので深刻な問題となっています。
ガンの告知が良い例です。アメリカでは1980年代始めまでガンの告知をしていた医師は41%にすぎなかったのですが、1993年にカルフォルニアでガンの告知をしなかった医師と病院を訴えた裁判ではガンの告知は医師の絶対の義務と明言した判決が下されました。ガン告知はアメリカの個人主義思想の背景に生まれたインフォームド・コンセプトが訴訟を通じて思わぬ方向に進んでしまった悪例となってしまいました。医療過誤訴訟ラッシュはその後も増え続け医師は毎年の医療過誤保険料の値上がりに苦しみ医師を廃業する人まで現れるようになりました。日本ではアメリカ的な個人主義と生命倫理に基づいた哲学として受け入れられているガンの告知は思わぬことから発生したのでした。
「SUE」(訴訟する)という単語はアメリカ人なら子供でもよく知っているといわれますが、生涯に訴訟に巻き込まれない人は少ないようです。訴える側も訴えられる側も紙一重なのです。夫婦の間でも訴訟のある国はもう一つの病めるアメリカの姿でもあります。
現代アメリカの最大の成功者といわれるビル・ゲイツは彼のアイディアでのし上がってきたのではなくアイディアの特許権をもとに攻撃的に権利を拡大する法律知識で勝利を得てきたのでした。かれの父親は弁護士で法律知識と訴訟がいかに金儲けにつながるかと知っていたことが理学を学ぶ学生を成功に導いたのでした。
9 理解し難い気質
10年ほど前まで、大都市のレストランに入ると、席に案内する係の人に禁煙席か喫煙席か聞かれました。現在はすべて禁煙席となり、飛行機もほとんどそうなりました。タバコを吸う人にとって肩身が狭い国となってしまったのはタバコを吸っていて肺ガンになった人たちがタバコ会社を相手に訴訟し勝利したことと、吸わない人達も煙によって被害をうけたと訴えてこれも勝訴したことが原因です。アメリカらしい事件といえますが、ひとつ納得出来ないなことがあります。それはマリファナのことです。
ネバタ州がマリファナの合法化に住民投票をおこなった結果、合法とみなされたのです。
同州はマリファナの医療利用に関しては犯罪対象から除いており、1オンス以下の所持は650ドルの罰金で済むとなっていました。しかし今回の提案は21才以上の成人の場合、公の場所で吸わない限り合法とみなし、3オンス以下の所持は目的を問わず罰則の対象外となったのです。アメリカ人のマリファナに対する意識は取り締まり強化が必要な犯罪ではなく健康問題へと移っているようで、昨年行われた世論調査によると、61%の成人が警察はマリファナ所持の取り締まりより悪質な犯罪に時間を使うべきという意見があり、州内の市警や郡警察官が加盟する団体までも提案支持を表明しました。しかし、本来、警察は麻薬の合法化には断固反対する立場にあるべきで、議論をよび撤回したことが逆に本音と建て前の両極端な部分を露呈する結果となってしまいました。
また、お隣の国のカナダでも上院委員会が16才以上を対象に個人使用に限りマリファナ使用の合法化支持を決め本会議に提出する見込みとなり、委員会によるとマリファナは酒よりも人体に害が少なく使用の有無は個人が判断することで犯罪対象ではなく健康問題として扱うべきで酒やタバコと同じ扱いをすべきとしています。
マリファナは有害な麻薬であることは間違いないはずなのになぜこのような結果になるか、理解に苦しみます。合法化の結果、入手が容易になり中毒者が増加し犯罪も増加するというダブルの悪の方程式がなぜ分からないのか信じられない推移です。
麻薬に蝕まれるのは貧しい人たちだけではありません。先日、フロリダ州の薬物中毒リハビリ施設で薬物中毒の治療を受けていた女性(25才)が施設内でコカインを不法所持し警察に拘留されました。女性はブッシュ大統領の姪でフロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏の娘でした。ご多分に漏れず彼女は高校生のときからマリファナを使用しており、麻薬から薬物の強いものにエスカレートし、薬物治療施設で薬物依存症の戦いの最中にもかかわらず、今回の事件となりました。
タバコに対するヒステリーとも思われる反応とマリファナに対する寛容さにアメリカ人を分かった気になっている人は混乱させられてしまいます。
10 成功の秘訣
アメリカ生活の長かった友人の女性がある日、東京の都心のビルに用事で出向きました。一階のエレベーターに向かって歩いているとドアーが閉まりそうになったので駆けだしました。しかし人が乗っているにもかかわらず、エレベーターは彼女の鼻先で閉まってしまったのです。彼女は憤慨し、日本人の友人達にその話をしました。アメリカでは考えられない事態であったからです。しかし、その話を聞いた人たちは一様になぜそんなことを問題にするか、不可解であると言ったそうです。日本ではエレベーターに向かって走ってくる女性のために「開く」ボタンを押すケースは二つだけ、ひとつはその女性の知り合いが中に乗っている場合ともうひとつは女性が美人の場合だけと知った時は怒りを通り越して情けなくなったそうです。
アメリカは男女に関わらずエレベーターだけでなく、回転ドアーで次の人の為にドアーを押さえたり、席を譲ったりが常識となっています。知人と他人をしっかり区別する島国日本は、また外国人と日本人も大きく区別する国でもあり、挨拶や笑顔を知り合いにだけにしかしないという妙な仲間意識が未だにはびこっているのです。
アメリカ人から学ぶ最高の知恵はあの表情の明るさなのです。常に微笑みを忘れないことと挨拶がこの国のエネルギーとなったように思えるのです。全米の都市の中でも最も愛想が悪いので有名なニューヨーカーでさえ、見知らぬ人でも道で目が合えば大抵微笑んでくれるのです。デパートで買い物をして紙袋に入った商品を受け取るとき店員さんが言う「楽しい一日を」、バスを降りるとき運転手に「ありがとう」というと返ってくるのは「気をつけて」、朝のエレベーターで見知らぬ人から「おはよう」、レストランでお料理を持ってきたウエーターが「楽しんで」、すべてのシーンはそれぞれの人たちが明るい笑顔と眼と眼のコンタクトがついているのです。
日本人がアメリカで成功する秘訣という本を読んでいたら、日本の習慣を捨て去って、明るい笑顔でいることと書いてあって、なにかもっと大事なことかと思っていたので意外でした。そういえば日本のアサヒビールの樋口さんとい経営者が成功する人は明るくて声が大きい人といっていたのを思い出しました。
情報化の時代となりコンピューターは驚異的な発展をし続けてます。しかしコンピューターは情報を伝える道具にしかすぎません。真の大事な情報を得ようと思ったら人間関係を円滑にしておかなければならないのです。人と人をむすぶものは笑顔の挨拶です。明るい笑顔が出会いをつくり、人生を大きく変えてゆくのですから、アメリカでの成功の秘訣というより、人生の成功の秘訣といえそうです。
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