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心理教育相談所レポート

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【2015/05/23】

少子高齢化社会と子どもの育ち・大人の発達
―ワークライフバランスはなぜ重要か―

平成27年5月23日(土)に、聖徳大学心理教育相談所主催講演会「少子高齢化社会と子どもの育ち・大人の発達―ワークライフバランスはなぜ重要か―」を開催いたしました。

会場は満員となり、多くの方にご参加いただきました。誠にありがとうございました。

講師は東京女子大学名誉教授の柏木惠子先生でした。柏木先生のご専門は発達心理学です。
発達心理学というのは、子どもから高齢者まで、幅広い年代の人を対象としますが、心理学の専門家以外の方には、「子どもの研究」と思われることが多いといいます。

これは、発達というと「できるようになる」「うまくなる」「早くなる」ものだという誤解に基づいているだろうといいます。
「できなくなる」「しなくなる」というのも、大切な変化だそうです。
柏木先生は、新しい発達の考え方として、SOC理論(Selection-Optimization-Compensation)をご紹介されました。
これは、選択したことについて、最大限努力し、失ったものを補うということで、それはつまり上手に歳をとる、個性を生かした生き方といえるそうです。
特に大人以上の発達においては、自分の生き方を自分で選び、自分の発達をコントロールする、つまり自ら育つことが重要になるということでした。

日本における大人の発達
しかし、柏木先生は、どうも日本においては大人の発達がうまくいっていないと感じるそうです。

大人の発達がうまくいっていない例として、柏木先生はふたつの日本の「特産品」を挙げました。
ひとつは「過労死」、もうひとつは「育児不安」です。

過労死は日本特有の現象で、英語の辞書にも「karoshi」として掲載されているそうです。
ワークライフバランスを日本と他国とで比較すると、日本の男性の仕事の時間は非常に長く、日本の男性の生き方が、仕事に偏っているのが明らかだそうです。
例えば、夫婦に子どもがいる家庭において、日本では女性は「子持ち」、男性は「家族持ち」と表現されることが多くみられます。
こういった文化的背景も、日本の男性の長時間労働の原因の一つになっているだろうとのことでした。

ところが、賃金を得られるような仕事だけでなく、家事・育児も労働の一種として考えると、実は日本人のトータルの労働時間は、男性よりも女性の方が長くなるそうです。
にもかかわらず、過労死するのはほぼ男性だといいます。
この事実が示すのは、過労死が単純に労働時間の長さにより引き起こされるのではなく、ひとつのことをやり続けることで引き起こされる可能性があるということだそうです。

育児不安は、日本特有というわけではないそうですが、日本ほど育児不安が蔓延している国はないそうです。
母親が抱える育児不安の要因はふたつあり、ひとつは母親自身が仕事をしているかどうか、もうひとつは父親の育児参加・関与だそうです。

仕事をしている母親の方が、仕事をしていない母親よりも育児不安が多いのではないか、という気がしますが、実際には逆で、仕事をしている母親の方が育児不安は少ないそうです。
しかし、日本では「母の手で子どもを育てるのが良い」という考えのもと、仕事を辞めて子育てをする傾向があるそうです。
これは、欧米では見られない特徴だそうです。

現代の女性の生き方
柏木先生によれば、仕事をしていない女性の方が育児不安を高く示すのは、昔とは生き方が変わったからだそうです。
今から100年以上前、日本の平均的な女性は、義務教育後は家事見習いとして家に入り、23歳ごろに結婚、その後13年間ほどで4~5人の子どもを出産していたそうです。
多くが見合い結婚だったこともあり、夫の方が年上で、先に亡くなっていたそうです。
そして末子が結婚する頃、女性自身が亡くなるそうです。
つまり、良い母親でいることは、そのまま良い一生を送ることと同じだったそうで、これが典型的な「嫁」の人生だったそうです。

現在は寿命が延び、少子高齢化の社会となりました。
それにより、「嫁」の人生は終焉を迎えたそうです。

子どものために仕事をやめた母親は、いずれ母親ではあるけれども、母親としてではない生き方をしなければならなくなります。
人間は他の動物と異なり、将来を予測することができるので、子育てをしている最中から、子育てが終わった時のことを考えてしまい、それが育児不安を高めるのだそうです。

さらに、昔は多くが見合い結婚であり、夫の方が年上で、学歴も家柄も上というのが良い結婚だったそうです。
ところが今は恋愛結婚が主流で、生活条件が近い者同士で結婚することが増えているため、一方が仕事、一方が家事・育児となると、対等な関係が崩れてしまい、夫への不満が高まり、これも育児不安を高める要因になるそうです。

昔は労働というと多くが力仕事で、こなせるのは男性に限られていましたが、今はコンピューターの普及により、女性でも男性と変わらない仕事ができるようになりました。
このことも、女性が母あるいは妻としてだけではなく、一人の個人として生きることができる要因になったといいます。
しかし、私たちはその変化に追い付けていないとのことです。

父親の育児参加・関与
育児不安のもうひとつの要因は、父親の育児参加・関与です。
子育て、そして親の介護などといった「ケア労働」は、長らく女性がやってきましたが、それはあたりまえのこととして受入れられてきました。
ところが、少子高齢化に伴って女性だけではケア労働ができなくなってくると、ようやくケア労働が政策課題となったのだそうです。
これは、単純に男性が悪いということではなく、日本の文化的なジェンダー観が深く関与しているということでした。

男女ともに、恋愛、結婚、出産、育児も、仕事と一緒にキャリアプランの一環として考えるべき
柏木先生は、男女ともに、恋愛、結婚、出産、育児も、仕事と一緒にキャリアプランの一環として考えるべきだといいます。
柏木先生によれば、少子高齢化は、子どもが生きていく上で身につけるべき力についての考え方を変えました。
人生が短かったころは、女性は母親として生きていれば十分でした。
男性も、仕事人間で済みました。
しかし、今は違います。
つまり少子高齢化とは、「家庭人として生まれ育ち、社会人として終わる」時代の終焉を意味するとのことでした。
それにより、個人として生きる必要、複数役割を担う必要が生じました。
これからは、男性も女性も、社会人として、同時に家庭人として生きる力が必須になるとのことでした。

ご参加いただいた皆様からは、「具体例がたくさんあってわかりやすかった」「タイムリーなテーマの講演が聞けて、とてもよかった」「これからの生き方を考えるきっかけになった」「驚きや気づきがたくさんあった」など多数のご感想をいただきました。

今後も聖徳大学心理教育相談所では、さまざまな講演会を開催する予定です。どうぞご期待ください。

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